東京ベイ・浦安市川医療センター:米国式のレジデント研修プログラムを導入

近年、米国式の教育プログラムや診療スタイルを取り入れることで、研修の質を高めて多くの研修医を集めようとする医療機関が増えてきています。2012年4月にリニューアルオープンした東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)もそのひとつです。

アメリカの提携大学への短期留学も可能

リニューアルオープンから間もないにも関わらず、既に多くの研修医が同センターを選んでいる理由として、まず米国への臨床留学の斡旋を長年手掛けてきた野口医学研究所が、米国での臨床経験者を各診療科の指導医として選抜・配置している点が挙げられます。

また、指導医だけでなく、同センター長の藤谷茂樹氏はピッツバーグ大学やUCLAなどで、内科・集中治療・感染症の分野に従事した経験があり、同センターの研修委員長である町淳二氏はハワイ大学の現役の外科教授を努めているなど、センター全体で米国の医療に精通した人材を揃えているのが特徴です。

同センターの後期研修プログラムは、米国とほぼ同じシステム、すなわち専門科目を問わず、ジェネラリストとしての診療能力を身につけることを最優先としています。例えば、呼吸器内科が専攻であっても、消化器内科や循環器内科など全内科疾患の入院患者の診療を専門医の指導の下で担当することになります。

また、日本の医師も受験ができるUSMLE(The United States Medical Licensing Examination:米国の医師国家試験)に合格し、ECFM(米国の医師免許)を持っていれば、野口医学研究所からの留学実績があるハワイ大学やトマスジェファソン大学などに臨床留学ができ、米国で研修医になるために必要な面接を受けることもできます。そのため、同センターには海外志向の強い研修医が集まっているのです。

多摩総合医療センター

臨床研修制度の開始から6年が経ち、研修内容の決定の自由度を高める病院が増えているなか、あえてプログラムを変えない施設があります。都立多摩総合医療センター(旧 都立府中病院)もその一つです。

小児総合医療センターと同じ建物です

同病院では制度開始から一貫して、プライマリケアをしっかりと学べる研修内容をセールスポイントとしており、募集定員13名に対して、全国から毎年60〜100人程度の研修希望者を獲得してきました。

病院が開催した説明会では、医学生から「従来のプログラムを続けてほしい」という要望が数多く出された結果、従来のスタンスで引き続き研修を行うことになりました。

プログラムの特徴としては、各診療科のスーパーローテートと、それだけでは学べない部分を保管する「コアカリキュラム」の研修を併せて行うという点が挙げられます。

自由選択をなくし、基本的には全員が同じ内容の研修を行うのは、将来どんな診療科を選ぶにせよ、まずは2年間かけて、全ての医師が習得すべき臨床能力、医師として望ましい態度や習慣をキッチリと身に付けることを目的としているためです。

そのため、専門診療科の研修でも、できる限りプライマリケア領域のものを優先的に学べるようにしています。例えば外科では、長時間の手術に携わるのではなく、外来レベルの外傷を中心に診るスタイルにしました。

各診療科のローテーションでは学ぶことが難しい抗菌薬の使い方、リスクマネジメント、緩和医療、臨床研究といった領域については、特別にカリキュラムを作成。2年間で一通りを学べるようにしています。

また、研修2年目にはERで単独診療ができるようにすることを目標に、1年目でERの臨床能力と画像診断の能力を集中的に習得する「コア重点研修」を設けているのも特徴です。

2年間を通してERで週1回の夜間当直、月1回の休日研修を行い、画像診断については、毎週開催されるカンファレンスに参加。指導医による6ヵ月後との研修成果の評価も行うようになっています。

松波総合病院

初期研修医の確保に苦戦している病院が少なくないなか、常に募集定員は一杯、定員の3倍の研修希望者が応募してくることもある松波総合病院(岐阜県鳥羽郡)。

社会医療法人の認可を受けました

評価が高い要因の一つとなっているのが医療機能の充実です。同病院は開設当初から、「救急患者を断らない病院」として地域の救急医療を担っており、救急医療に関する厳しい要件を満たした結果、2008年には社会医療法人の認可を受けています。

年間の救急患者の受入れ数は約1万5000件となっており、この点に魅力を感じて応募してきた研修医も少なくありません。また、民間病院として唯一、生体肝移植を手掛けている(2009年末現在)ことも、セールスポイントとなっています。

また、研修医が指導医以外の病院スタッフと垣根なく交流できるように、区切りが全くない1フロアに医局を設置しているのも大きなポイントです。研修先を決定する際、数十もの病院を見学したある研修医は「年次の近い医師だけでなく、診療部長などのベテランにも気兼ねなく話を聞ける環境に魅力を感じた」と語っています。

病院の規模や指導医の人員を考慮すれば10人程度まで募集定員を設定することも可能ですが、スタッフが全員の顔を覚えて、きめ細かい教育ができるように募集定員もあえて4人にしている点も見逃せません。

そんな松波総合病院ですが、2009年5月に行われた臨床研修制度の改正を受けて、必修化を中心に各診療科で満遍なく研修するスーパーローテート方式をやめ、研修医の希望に合わせてプログラムを作成する仕組みに変更を行いました。

進みたい科目が決まっていない場合は、興味のある診療科を複数回れるようになっています。他病院から新たに迎えた総合内科や救急科の医師にもプログラムの作成に加わってもらい、プログラムの内容をより充実させたものにしました。

三重大学病院

プライマリケアの基本的な診療能力の習得に加え、研修医が将来のキャリアパスを意識しながら、興味のある診療科や関連科を自由に選べるようにオーダーメード型の研修プログラムを開始した三重大学病院。自分で組んだプログラムなので、目的意識を持って研修に臨めると好評です。

内視鏡やエコーが学べるスキルズラボを開設

大学では特殊な症例が多いほか、県内では高度救命救急などの療育が弱いため、研修医が様々な経験ができるように多くの病院との連携に取り組んでいます。

例えば2009年度は、県内の27施設に加え、亀田総合病院や聖隷浜松病院など、県外の有名病院10施設と連携し、一定期間研修を行えるようにしました。

また、研修医の悩み事や相談や将来像のイメージをしやすくするため、2008年から卒後臨床研修部の医師スタッフに年齢の近い30歳代前後の医師を入れ、スタッフの数も従来の1人から6人に増員しました。さらに、2009年4月には、内視鏡やエコー、救急処置などの手技をシミュレーターを使って24時間いつでも学べる「スキルズラボ」も開設。日常診療の後に、指導医と一緒に訪れる人が多いようです。

臨床研修制度が導入されて以来、苦戦を強いられてきた同大ですが、こうした手厚い取り組みは着実に効果を現してきており、想定の募集定員を超える研修希望者が集まるようになりました。

2009年には制度改正を機に、臨床研修病院群を形成し、特色のある病院が共同で研修プログラムをつくることで、様々な症例を効率的に診る体制が整えました。具体的には、同大が基幹型病院となり、救急や地域医療、高齢者医療に強い紀南病院、精神医療に定評のある県立志摩病院などと共同で研修医の募集・育成を行っています。

岡山大学病院

初期研修医の確保に苦労し、採用人数は毎年、募集定員を大きく割り込み、同大の医学部卒業生の大半も他の病院を選んでいる岡山大学病院。この状況が続けば、後期臨床研修医はもちろん、医局員の大幅な減少にもつながりかねないとして、教育体制の刷新が急務となっています。

従来のスーパーローテート方式を廃止

そこで、従来のスーパーローテート方式を廃止し、先端医療が充実している大学の強みを活かして専門性に特化する研修方針を打ち出しました。具体的には、専門研修に充てる期間を最大限確保します。

履修する診療科を内科6ヶ月、救急3ヶ月、地域医療1ヶ月、選択必修(2科目)を3ヶ月とし、残りの11ヶ月は、各研修医が将来専門したい診療科での研修に充てます。また、専門研修は1年目でも履修できるようになっています。

必修化の研修の際も、専門性を考慮します。例えば内科の研修時であれば、泌尿器科を希望する人には腎臓内科を、外科を希望する人には術後患者の内科的管理を主体に指導するといった具合です。

こうすれば、希望する科と他科のかかわりについても常に考えながら、知識や手技を習得できます。また、希望する診療科の医師を相談役として任命し、早期から専門科目に触れられる環境を整えています。

さらに、専門科目により深く探求してもらうために、研修中でも大学院に進学できる体制を整備。併せて奨学金制度も創設しました。これにより、研修修了後も大学に残ってもらい、常勤医の充実を図ることも期待できるというわけです。

教育の質を上げるため、指導医の育成にも力を注いでいます。各診療科の若手医師が指導方法を評価する委員会を定期的に開いているほか、有能な指導医には肩書きや報酬などのインセンティブを用意しています。